Making of Augusto Roma>
An article by Stefano Carducci
"...e chi usa questi prodotti di Augusto Roma
sarà sulla lista dei clienti di questa bottega storica,
e lui stesso diventa parte della storia."
ローマの朝は実に神秘的だ。フラミニオの駅から始まり、コンドッティ通りを経由して、偉大なるパンテオンの前を抜けてナヴォナ広場に辿り着く私のいささか誇張された散歩道も、この壮大な街並みを眺めていれば一瞬のことである。
古代ローマの遺跡がそこかしこに散らばっている。この世の中には変わるもの、変わらないものがあるが、ローマにおいては圧倒的に後者の方が多いようだ。それに創業63年になるアウグストの工房もまた、後者のようである。
近くのエスプレッソバルでカフェ・マキアートを飲んでから、私は取材のためアウグストの工房を尋ねた。オーナー兄弟はいつも素晴らしい笑顔とローマ式の冗談、そして職人ならではの力強い握手で私を迎えてくれる。職人の手というのは、いつも想像以上のパワーに満ちている。その手を動かし始めた時に彼らのクラフツマンとしてのキャリアが始まり、その手が動く限り彼らは仕事をやめることはない。手は彼らの人生そのものである。
アウグストの工房は職人達が最も仕事に集中できる環境を護るため、非公開の場所にある。だがそこは驚くほどローマそのものだ。歴史的で、あらゆるローマ的なものに囲まれFabbrica(工場)ではなくBottega(工房)という言葉があてられている理由がよく分かる。所狭しと積まれたレザーに、木製の重々しい作業台。古びた型紙、新しい型紙。それにたくさんの製作途中の品物。しかしなんと言ってもアウグストの工房の最も大きな特徴は「静けさ」だ。
これほどまでにモダンでエレガント、そしてラグジュアリーなブランドにも関わらず、工房ではたった5、6人の職人たちが黙々と仕事をしている。創業者の二人の息子達を含む、生粋のローマ人の職人達が筆を持ってコバを塗ったり、金槌でコツコツとレザーを叩いたりしている。ミシンだって数台しかないから、時より渋滞を起こしながら皆が交代交代で使っている。
あまりにも前時代的で、驚くことだろう。だがこれこそが物作りの真髄であったということを、私たちはすぐに思い出すことができる。時代が変わろうと美しいものを求める心は変わらず、美しいものをいうのは往々にしてこのように手作業で作られるからである。
しかし聞けば彼らは新作ウォレットの金具を、遠く離れた日本の貴金属製作所に依頼しているという。それどころか、物によっては金具の取り付けから最終仕上げまで日本のGrande Amico(偉大な友人)と言ぶ職人の工房で行っているという。
「我々はローマにこだわりがある。しかしクオリティにはそれ以上のこだわりがある。だから彼らの手を借りているんだ。彼らは細部に関して世界で最も優れた技術を持っているし、悔しいけどその点では我々以上さ」
イタリア人はよく人の手を借りる。例えばフェラーリのようなスポーツカーメーカーなら、ボディはボティ専門に作る「カロッツェリア」に任せるし、ミッションはミッション専門の工房に任せる。その方がより良いものができるからだ。しかしクオリティを求めるばかりに9,000km以上離れた地に住む職人の手を借りるというのだから、まったく呆れたものである。
夜になるとローマは幻想の街になる。ありとあらゆる遺跡がライトアップされて、まるで自分が歴史小説の中を歩いているかのような気持ちになる。
夕食にはローマ式の前菜、例えばアーティチョークに野菜のグリル、それからカルボナーラを食べる。
帰り道にジェラテリアが夜中まで開いているのが困り物だ。
偉大なジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻の前で圧倒されながら味わうジェラートはFior di Latte(ミルクの花)にするとしよう。
まったく贅沢な街だ。世界中の人々が羨望する芸術や文化が、まるで当たり前かのようにそこにあるのだから。
次の朝、私はまたアウグストの工房を訪れる。まだ10時前にも関わらず、彼らはもう黙々と仕事をしている。私はふと昨日彼らの一人が作っていたバッグが、完成品として置かれているのを見つける。
「素晴らしいな!」私はすっかり虜になって、バッグを眺める。「昨日はいくつ完成したんだい?」
「2つだよ」職人が答える。たったの2つ!
そう、この美しいバッグやレザーアイテム達は数々の工程を経て、気が遠くなるような時間を掛けて作られているのだ。
アウグストは決して万人のためのブランドではない。
ここイタリア国内ではまだ既存の顧客達やその紹介での受注品ばかりを製作していて路面店もないし、パートナーシップを結んで販売している日本でもオンラインで何ヶ月も待たせているという。
しかし創業60年以上の彼らが2018年に意を決して発表したこのアウグストというブランドは、これこそがあるべき姿だとも言える。どれだけ時間が掛かっても、彼らはこのブランドで美しく長く使える一級品だけを作りたいと願っているからだ。
そこには伝統への敬意と、レザーへの限りない情熱、そして何よりも生粋のクラフツマンシップが息づいている。
職人の手から、あなたの手へ。アウグストの製品は私たちが知っているようなバッグでもなければ、財布でもない。これは手の中のヒストリック・ピース(歴史的な個体)だ。そしてアウグストのアイテムを使うその人自身が、この長い歴史を持つ工房の顧客リストに名を連ね、その歴史の一部になっていく。私はまたローマの街を歩きながら、そのことに思いを馳せている。そしてアイコニックなバッグ「ナヴォナ」のウェイティングリストに書かれた私の名前を思い浮かべて、少々誇らしい気分になってみるのである。
文 : ステファノ・カルドゥッチ